I WANNA GET YOUR・・・.

眠りのない夜を・・・。



ここは宿舎の一室。日は落ちて薄暗くなっている、明かりは灯っていない。
その薄闇の中、部屋の主は、目の下にうっすらと隈を作った瞳でぼんやり宙を見つめている。
彼はここ数日、まともに睡眠を摂っていない。

もうすぐ新たな希望配置への申請書の受けつけ時間が終わる。
まだ表情(かお)に幼さを残した青年は、いまだ迷っていた。
その表情は、他人(ひと)に見せることのない彼のもう一つの貌、闘う者の貌だった。
彼は彼なりにギリギリまで決めかねている。しかし時間は残酷で、彼にこれ以上の猶予は与えてくれるはずもない。

「自分は宇宙に上がるべきか・・・否か。」

数日前、彼の兄の姿が消えた。彼に何も告げずに。胸騒ぎがとまらない。
「同ポイントへいく」といった兄、それは共に戦ってくれるということではないのだろうか?
もしも・・・「噂されていることが本当のこと」なら、彼は兄と・・・・・。
『・・・おれ、わかんないよ・・・ケインスさん、どうしたらいい・・・レナさん・・・。』
彼は消え入りそうな声で自分の想い人たちに問うた。
彼の双碧から熱い雫がこぼれた。
心の葛藤が彼をまだ眠らせないだろう。


優しさなど要らない

遂にこの日が来た、ソラに上がるため、宿舎を出る日が・・・。
彼は兄の姿を見つけようと颯爽と歩く。が、難なくその姿を目にすることは出来た。
しかし・・・椅子に掛け、目を閉じて微動だにしない兄を見て・・・なぜか話し掛けることは愚か、
近づく事も出来なかった・・・。
そのまま彼らパイロット達は宇宙へと上っていった。彼は前と同じ類の嫌な胸騒ぎを感じていた。

暫くして出撃警報が鳴り、広い宇宙の戦場へと彼は出た。
まだ胸騒ぎは止まらない。彼は兄とは違う部隊、今離れたら戦いが終わるまで会う事もないだろう。
確かめたい。この気持ちの理由を意味を、でも彼は・・・それを知る術をもっていない。
しかし闘いは始まった、ボヤボヤ考えている暇など無かった・・・その瞬間・・・・・
あるべきではない方向からミサイルが彼目掛け放たれた。
其処で彼は信じがたい光景を目にすることになる・・・。


今、全てを捨てる時が来た。

ソラに上がる一組の兄弟。その兄は決心も固く、来るべき時までを一人静かに待っていた。
人を寄せ付けず・・・そう、弟さえ自ら側から突き放した。
膳立てもすんでいる、その為の機体も用意された。後は時を待つのみ。
彼は宇宙に上がるまでの残された時間を、母国ドイツで過ごしていた。
・・・・・・・亡き母の墓標へ別れを告げに。

兄妹弟の母親は、弟の出生後すぐに亡くなった。
当時8歳になったばかりだった兄は、母親の残したこの小さな命を自分が守ろうと決心した。
その時、兄は『自分の未来』を捨てたのである。そして彼は自分の夢、希望を捨て医師になる事を決断する。
しかし今は・・・『自分の未来』の為に『守ろうとした命』を捨てる決断をした。
「もう、シルクスには私は必要無い・・・奴は私が与えてやれない多くのものを自分の力で手に入れているのだから・・・な。」

そして戦場へ上がった兄は、守るべきだった弟にに銃口を向けた・・・。

事体は悪い方向へとしか進めない。
誰も止める術を持っていないから。


求めていた夢は・・・

ソラに上がった兄弟。少しずつずれていった関係、想い・・・。
どうすることも叶わずに、もう誰彼にも止める事の出来ない戦いが始まろうとしていた。

放たれたミサイルを紙一重で避け、その方向を仰ぎ見た。
見ずともそこにあるものは解りきっていた。黄色のモビルアーマー。
だが彼はそれを信じたくなかった・・・信じれるはずもなかった・・・

実の兄が自分を撃った事実を。


兄が転属してきた時、互いの理念を分かり合えたと思っていた・・・。
彼は知っていた、兄が『なりたくて』医者になったわけでないことを。
彼は知っている、兄が『敵国の機動兵器』に強い関心を寄せていることを。
その実、兄は連邦のMSには一度も搭乗したことはなかった。(戦闘機はあったが)
考えは自然と「自分は兄に利用されたのでは」等と悪い方向へばかりたどり着く。
兄は未来(さき)に何を求めたのだろうか?時代には、自分には何を・・・。

ヒトの求めるものなど本人にしか解らないというのに・・・。


絶望の宇宙に 吹き荒れる嵐

ジオンと連邦、そして連邦を裏切るものが入り混じる戦場は、
徐々にではあるがそれぞれを認識する者が出てきたころ・・・兄弟はまだ対峙していた。

何も話さずとも解れと兄は言う。
その兄の表情(かお)は何故か苦しげで・・・。

理解できない、何故なのだと問う弟がいる。
その弟の表情は困惑に満ちて・・・。

もとより考え方や価値観の違う二人には理解し合う事は難しく、次第に戦況に流されていった。
だが兄は安堵した、弟をこの手にかける事がなかったことを。そのような状況にならなかったことを。
悩んで、悩んで悩んでその末決めたことなのに、
頭の中では産褥熱に苦しみながら母が繰り返し言った言葉が纏わり付いた。
『貴方の弟を私の分まで愛してあげて』

兄は・・・たった今、自分の持っていた全てを失い 広い宇宙で身一つとなった。振り返っても、もう誰も居はしない。
其処に有る物は希望なのか絶望なのか・・・・・・・・・・。


勝利者などいない 闘いに疲れ果て・・・。

決別の時を迎えた兄弟は、解り合えないまま離れていった。
ショックから立ち直りかけたその時、後方に蒼いHMを補足した。セリエのHM、ファイナリィブルー。
彼は同朋のその姿に安堵した・・・しかし彼女もまた彼に銃口を向けたのであった。

信じていた者を突然失い困惑する彼を他所に、
他所でもまたジオンへと裏切る者が現れ始めていた。
彼が目にしたのは蒼いMS2機と茶のタンクタイプ。そこには想い人、レナの機体もあった。
だが一目で様子の可笑しい事に気づいた彼はその機動力で彼女の元へ向かう。
そう、彼女はもう一つの蒼いリスの駆るMS、ブルーディスティニーの一撃を食らっていたのである。
反撃に転じた彼女がタクヤの乗るタンクに阻まれた時・・・彼は彼女の元へ辿り着いた。
彼は躊躇う事無くランチャーを放っていた。 その貌は人前で見せることのないあの貌・・・。
彼の双碧に映る彼らは・・・もはや倒すべき敵となっていた。
その碧の瞳からは音も無く涙が散っていた。

こんな策謀の宙域に、勝利者なんかいやしない・・・。



BGMはここの管理者さん『駄魅州』さんからお借りしてます!
機動戦士ガンダム0083STARDUST MEMORRY〜the winner〜

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